世界で活躍するオーケストラ指揮者が語る「ボーダーレス時代のリーダーシップ」②-6

もちろん、技術を磨いて美しい音楽を間違いなく演奏できるのは結構なことです。しかし、その上に、自分が音楽の中に発見したメッセージや、独自の美学、世界観をしっかり盛り込んでいかない限り、いくら演奏技術が巧みでも、音楽は決して生きたものになりません。

その問題を解決するには「天から見つめる視点」、つまり、俯瞰的に物事を捉える視点が必要になります。自分と他者の関係性を超えるのです。それによって、音楽表現に絶対に欠かせない「世界観」が抜け落ちてしまうのを防ぐことができます。

――「物事を天から俯瞰的に見つめる」というのも簡単ではなさそうですが、いいやり方はありますか。

村中 普段使っている日本語の特性を意識してみることも、「俯瞰」をうまくやる第一歩になると思います。日本社会の問題は言語の問題に通じています。
 
よく、外国人が日本語を学ぶ上で大きな障害となるのは「敬語」だと言われていますよね。正直、敬語の使い方は日本人にとっても難しいものです。

私はヨーロッパ言語を使ってみてわかったのですが、日本語には「相手と同じ地平に立つ」という感覚が言語的に欠如しています。完全に存在しないわけではありませんが、常に相手と自分の関係を上下関係にしてしまうのが日本語の本質だと思います。

自らはへりくだって相手を立てる。友達同士でもきちんと話すとなれば、敬語を使って相手を立てる……。相手を下にすることはほとんどないので、「自分を下げて相手を立てる」ことが、日本語を使う際の基本的な「他人との関係性」になりますね。

――ヨーロッパの言葉を使う場合、他人との関係性はどうなるのでしょう。

村中 ヨーロッパ言語では、相手と自分との関係は常にフラットです。フランス語で相手をvous(あなた)と呼んでもtu(君、お前)と呼んでも、相手との関係性に上下はないのです。

私が外国から日本に拠点を移したときに感じたのは、日本語を使うと自動的に生じるこの「上下関係」こそが、日本社会を形作っているということでした。上下を常に意識して言葉を使っていると、自分と他者の関係性にのみ意識が向く状態が延々と続きます。

日本語を使うと議論がしづらくなったり、物事を俯瞰的に扱いにくくなったりするのは、この敬語による上下感覚があるからではないでしょうか。相手と自分の関係性にフラットではない上下意識が入り込み、本質的な話がしにくくなる。おそらく「議論できない日本人」という状態が出来上がった一番の要因は、そこにあると思います。

日本の技術にもサービスにも、「おもてなし」という独特の概念にも、背景には「相手を立てて自分を下げる」という感覚が必ず付いて回ります。その結果、芸術や表現で一番大切な「本質論」や「世界観」、つまり「自分が何を表現したいのか」というポイントが抜け落ちてしまう危険に、日本人は陥りやすい。このことを意識しなければなりません。

少しぐらい歪(いびつ)なやり方でも、真に自分の本質を探し出し、自分が訴えたいことを表現しきったとき、そこには必ず「独自の世界観」が反映されます。音楽活動だけでなく、世界で何か活動しようと思う人は、その点を常に考えておく必要があるでしょう。そうすれば日本人は大丈夫です。

――あまり自分の独自性ばかり伝えようとすると、逆にある種のエゴイズムに傾いてしまう恐れはありませんか。

村中 いいえ、自分の世界観を伝えるときは、そこにエゴが含まれていてもよいのです。さらに言えば、エゴのない世界観など存在するはずもありません。目の前の相手の思惑や反応だけを気にするのではなく、「自分独自の世界」を心の底から全力で伝えようとする日本人の姿を、どの国の人たちも見たいと思っているのです。
 
きっと「日本人にベートーヴェンがわかってたまるか」と言ったドイツ人も、それまでに彼が演奏を聴いた日本人音楽家がベートーヴェンを通じて「新しい世界観」を強く表現していれば、そうは考えなかったはずです。でも、残念ながら、日本人音楽家のベートーヴェンの演奏にオリジナリティが見当たらず、批判したのでしょう。

私自身もこういった検証作業を通じて、自分をもっと知り、そして日本をもっとよく知らなければならないと痛感しました。いくら美しい音を出しても、いくら素晴らしいステージを演出しても、オリジナルな「自分の世界観」がなければ、国境や言語の壁を超えて人の心には届かない。その意味で、私がオーケストラ・アフィアと共に創出しようとしている「自然と音楽」(Nature and Music)のコンセプトは、私の音楽に対する感じ方や考え方の集大成であるだけでなく、「自分は何者なのか」「自分にとって日本とは何か」という質問への答えとも言えるものなのです。
                           

ー了ー

「横浜に新しいオーケストラを作る」と私が言ったとき、彼らは笑った。でも、私が世界のクラシック音楽の祭典で 「イノヴェーション・アワード」にノミネートされると…

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