こんばんわ。
村中大祐です。
今日は【暗譜という秘儀について】です。
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■編集後記
どうも。村中です。
今、ドビュッシー没後100周年記念公演の
準備をしています。
先日も書いたとおり
私は眼が極端に悪いため
練習の時点で暗譜していないと
指揮ができない。
でもコンセプトやその他ができていると
仕事にかかる時間が早くて済む。
だからあまり苦にならないです。
でもどうやって暗譜するのか。
昔、クラウディオ・アッバードが
アルバン・ベルクの歌劇「ヴォツェック」という
超難しい作品を暗譜で指揮していましたが
ウィーンの指揮者仲間たちの間では
「アッバードがピッツェリアで
出来立てホヤホヤのピザを
自分の顔にぶちまけた」
といった冗談が飛び交っていました。
そのくらい、複雑な作品は
暗譜も大変だ、と言いたいのだろうと思うのですが。
この話の信ぴょう性はあまりありません。
ベルクといえば、私は外語大時代に
千葉馨さんという有名なホルン奏者の奥さんだった人で
ピアニストの高野燿子さんのところに
シューマンのクライスレリアーナを習いに行っていて
突然ある日、「村中さん、今度私のところの
小さな音楽会で弾いてみない?」と言われ
あまり長い曲は無理だから
それじゃあ、ということで
ベルクのピアノソナタを弾いたのです。
そうしたら舞台の上で演奏の途中で
暗譜がわからなくなったことがあります。
高野燿子さんと言えば
あのベネデッティ・ミケランジェリのお弟子さんです。
(イタリア人の偉大なピアニストで
ポリーニなども師事した人です。)
あの時は肝を冷やしましたね。
何とか最後まで弾きおおせましたが
冷や汗をかいた思い出です。
でもわたし、それ以外では
あまり暗譜で困ったことはないんですね。
じゃあどうやって暗譜しているのか。
指揮者の暗譜は、実際に演奏する方の暗譜とは
かなり違った視点があります。
暗譜は確かに大事ですね。
でも指揮者に求められるものは
準備段階では設計図を作ることなんですね。
意外にこの設計図が書けないものなんです。
なぜなら、音の洪水のなかで
自分の視点が定まらないからです。
例えば、大きな本屋さんに行きますね。
そこで小説か、新書か、経済コーナーか、
料理本か、ゲームソフトか。
ぱっと見たときには
どこにどのコーナーがあるのか、
わかりませんよね。
それを隅々まで何がどこにあるかを知ること。
まずはそこからがスタートなんですね。
問題はその先なんです。
多くの指揮者は
何がどこにあるか、で結構指揮してます。
でも本当はそこから先が勝負です。
「デフォルメ」をするんですね。
このデフォルメの作業をするためには
暗譜していないと無理です。
つまり体の中に音楽が突き抜けるくらい
自分のアタマの中で、楽譜なしで
音楽を完全に再現できる状態になれば
そこから「デフォルメ」の作業が始まります。
そこからですが、おそらくは
写真を撮る人ならわかるでしょうが
枠のなかに何をどのバランスで配置するか。
それを考えます。
そして全体を整えて、ストーリーを作るのです。
でもその時に暗譜ができていないと
全体が見えないわけです。
実際にはもう少し複雑なんですが
だいたいそんな感じで準備をします。
私が今日話したかったのは
実は「彫刻」とか「器」を愛でることが
こういった音楽のカタチを
デフォルメするのに
きわめて役にたつのです。
結局、つまるところ
シンメトリー(線対称)にできているものを
いびつなカタチに一度崩して
その形を再度整えるのです。
そうすると、まるで手ひねりの器のような自分らしさが
音楽のなかに生じます。
ぬくもりや愛情。
感情や極彩色の輝き。
そういったものは
実は指揮者ではなく
演奏者がもっている色の質感なのです。
でもそれらを自在に遊ばせてやれるだけの
器、プラットフォームをつくるには
まず指揮者が暗譜して
自在に音楽のカタチが変われる環境づくりが必要です。
見通し。計画。プラン。
やはりそこははずせませんね。
村中大祐
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