カターニア ベリーニ歌劇場こぼれ話
by AfiA Office(Sumi)
その1
「シニョーラ カルメンの話」
劇場には良いも悪いも、目に見えるも見えないも、妖精のようなものが住んでいると私たちは常々感じている。
シニョーラ カルメンは、今回の私たちのお世話役だった。
イタリアの劇場の中と言うのは、まるで迷路のようになっている。
特に馬蹄形の天井桟敷のてっぺんが5階まで
あるようなところはエレベーターもなく、
一歩中に入ると裏手は複雑な作りになっている。
芸術監督の部屋に打ち合わせに行こうものなら、塔のてっぺんに登るように、何の案内板もない道を表から裏へとグルグルと通っていかなければならない。
ただ、カルメンは私たちが打ち合わせに行く時には必ずといっていいほど、待ち合わせもしていないのに劇場の下の玄関に、またある日は入り口のバーにグッドタイミングで現れる。
「おはよう、調子はどう?あなた達どこへ行くの?」
「今から監督とコンサートの打ち合わせなんだよ」
「じゃあ私がつれていってあげる」
毎日のようにこんな会話が繰り返される。
まるでどこかから見ていたかのように。
何回目かの打ち合わせの時、案の定現れたカルメンが監督の部屋へ道案内をしながら、ある部屋を通ってくれた。
そこは、終演後にちょっとしたパーティなどをする格式の高い部屋で、劇場の名前の通り、
カターニアで生まれたイタリアを代表するオペラの作曲家の一人、ヴィンチェンツォ・ベリーニの若き姿の像があるとても素敵な部屋だった。
「見て、ここは晴れた日にはエトナ山が見えるのよ」
そう言って彼女は、お気に入りの場所から窓の向こうに見える雪をかぶったエトナを見せてくれた。
「あなたはなんでいつもタイミングよく現れて、私たちに劇場のいろんなものを見せてくれるの。マジックでも使っているの?」
そう言うと、彼女はウインクを一つして、
クスクスと笑ってみせた。
彼女はやっぱりこの劇場に住む、妖精のひとりかもしれない。
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