リュッケルトの詩1

マーラーのリュッケルト歌曲集に

「わたしは俗世から離れて」

Ich bin der Welt abhanden gekommen…
という歌曲がある。

「わたしはこの世から捨てられて」あるいは
「わたしはこの世に忘れられて」
と訳されるのが一般的だけれど。

正直言ってこの訳には
異論がある。

ich bin der Welt までは英語で

I am from the world という直訳。

abhanden とは
vorhanden( 「存在する」という意味)

という言葉と逆の意味。

「存在しない」ということ。

abは離れるという意味で

「この世から離れた」存在になる ということ。

私ならこのタイトル

「わたしは俗世から離れて」 と訳す。

マーラーは世間から見捨てられたのではない。
自分が世間から消えたかったのだ。

ちなみにこの歌曲について

交響曲第5番の作曲当時のマーラーの言葉が

ナタリー・バウアー・レヒナーの覚書に
こう書かれている。

(出典:Gustav Mahler Leben und Werk in Zeugnissen der Zeit
von Herta und Kurt Blaukopf)

Er selbst sagte

彼自身の語るところによれば

über die ungemein erfüllte und gehaltene Art dieses Liedes,

この歌曲の不思議なほどに満ち足りて内容の深い表現について

es sei Empfindung bis in die Lippen hinauf,

感じた雰囲気を言葉にしようとして

die sie aber nicht übertritt !
それが口元まで出かかるのだが

言葉にできない

そんな詩だ

Auch sagte er : das sei er selbst!

彼はこうも言った

これは私自身についてのことだよ
(注:最後のdas sei er selbstのdasは
das Lied 「歌曲」のことか、それとも
「雰囲気を言葉にしようにもできない」ことなのか解釈はいろいろできるところだ)

世間の雑事に追われることなく ただ己れの愛に生き 己れの歌に生きる心境。

マーラーが音楽の世界
それも作曲家としての
自分の世界に生きたかった、というのは有名な話。

リュッケルトの詩の中に 己れの姿を見て 、
それを歌ったということらしい。

Ich bin der Welt abhanden gekommen

Gedicht von Friedrich Rückert

Ich bin der Welt abhanden gekommen,

Mit der ich sonst viele Zeit verdorben,

Sie hat so lange nichts von mir vernommen,

Sie mag wohl glauben, ich sei gestorben!

Es ist mir auch gar nichts daran gelegen,

Ob sie mich für gestorben hält,

Ich kann auch gar nichts sagen dagegen,

Denn wirklich bin ich gestorben der Welt.

Ich bin gestorben dem Weltgetümmel,

Und ruh’ in einem stillen Gebiet!

Ich leb’ allein in meinem Himmel,

In meinem Lieben, in meinem Lied!

Friedrich Rückert

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